ペット防災 第6回「ペット専用避難所と災害時の地域コミュニティ」

ペットと暮らす2019/06/02

 

 

災害時の飼い主とペットの同行避難対策として「ペット専用避難所」を求める声が一部にあります。

 

熊本地震の検証に基づけばそれが災害時のペット同行避難の解決策となるのかには疑問点がいくつかあります。

 

地震発生から10日ほどして、避難所にいた飼い主さんの知り合いから相談がありました。

 

それまで室内同伴していた柴犬が避難所の判断で屋外に出される事になり、飼い主さんが困っている、どうすればいいかとの相談でした。

 

柴犬の名前はチロちゃん、飼い主はおばあちゃんでした。

 

地震が起きるまでおばあちゃんはチロちゃんを室内飼育していました。

 

おばあちゃんはずっと室内飼育していたチロちゃんを外に繋げば吠えてみんなの迷惑になるだろうし、何よりずっとチロちゃんとおばあちゃんは、夜は一緒の布団で寝ていたのでチロちゃんを屋外に繋ぐ事自体に不安を抱えているとの事でした。

 

小学校に行くとチロちゃんと飼い主であるおばあちゃん、連絡をくれたおばあちゃんの知り合いの女性が待っていました。

 

 

おばあちゃんはもちろんの事、チロちゃんにも状況がわかるのかおばあちゃんもチロちゃんもとても不安な表情をしていました。

 

当時僕はその小学校から車で5分ほどの距離の益城町総合体育館を拠点に同行避難支援をしていて、当時そこでは室内同伴出来ていた状況だった事、またNPOが設置したペット同伴テントにも空きがあった事からおばあちゃんとチロちゃんに総合体育館への移動を提案しました。

 

でもその提案はおばあちゃんの現状を理解出来ていない提案でした。

 

先ずおばあちゃんは車を持っておらず、おばあちゃんにとって総合体育館は車で5分の距離でもとても遠い場所だったのです。

 

そして一番大きな問題は「コミュニティ」の問題でした。

 

おばあちゃんの家は避難所である小学校の目と鼻の先で、近所の人たちもみんなこの小学校に避難していました。
おばあちゃんに付き添っていた女性もご近所さんでした。

 

総合体育館へ移動すればおばあちゃんとチロちゃんは室内で一緒に暮らす事が出来る状況でしたが、移動すればおばあちゃんは地域コミュニティから切り離される形になったのです。

 

幸いな事におばあちゃんの自宅は大きな被害は受けておらず、水道が復旧すれば自宅で暮らせるとの事だったので、チロちゃんを地元の保護団体に一時的に預かってもらう事で問題は解決する事が出来ました。

 

10日ほどでチロちゃんとおばあちゃんは再び自宅で一緒の布団で寝る事が出来る様になりました。

 

 

避難所でペットと一緒に居る事が出来たとしても、それによって被災者自身が元々暮らすコミュニティから切り離されてしまえば避難生活が成り立たなくなる場合もあり得るのです。

 

もう一つの実例として熊本県と環境省が益城町の同伴避難者向けに開設した「第二わんにゃんハウス」の失敗があります。

 

益城町から車で30分ほどのサッカースタジアム内に飼い主が避難する場所とペット専用のスペースを作り、同行避難している飼い主用の避難所としましたが、結果的には一頭の犬も猫もそこを利用する事はなく、閉鎖されました。

 

広報不足も原因の一つだと思いますが、やはりコミュニティからの隔離も大きな要因だと思います。

 

地域コミュニティに於ける人と人との繋がりの大切さ、災害時それは尚更大切な事となるのです。

 

災害時は避難所に入った近隣の地域の人たちが、お互いを支え合うコミュニティを形成し、やがてそれが共助の形となります。

 

災害時に飼い主とペットが避難する「ペット専用避難所」を望む声もありますが、各地域毎にそれを作る事は困難です。

 

「ペット専用避難所」を開設したとしても、それが被災者を普段から暮らしている地域から引き離す事になれば復興の遅れにも繋がり兼ねないケースもあるのです。

 

一般社団法人HUG代表理事

冨士岡 剛

 

 

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コラム提供:一般社団法人HUG


#ペット防災 #ペット専用避難所 #災害時の地域コミュニティ

 

 

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